「アーミテージ・ナイ・リポート」と「日米合同委員会」

そもそも今回の安保法制・原発再稼働・TPP交渉は「とんでも右翼政権による悪だくみ」というよりも、アメリカによる一連の圧力への応答と見るべきだ。アメリカ側の要求は「第三次アーミテージ・ナイ・リポート」に集約されており、これはアメリカ超党派の合意を得たものである。安倍政権は、これをほぼ丸呑みさせられていると私は理解している。なぜなら安倍首相の持論である「戦後レジームからの脱却」とは、「対米依存」から「自主独立」への転換を目指すものであり、日米同盟からの距離化・相対化を目指すものだからである。第一次安倍政権はそれを目標に掲げて挫折した。こんなものをアメリカが許容できるわけがない。第二次安倍政権は、その目標をそっくり撤回して「対米依存」へ転換した。これは主体的な転換ではない。アメリカは、民主党政権時代の大きな政策転換に苛立ちを深めていた。鳩山首相の県外移設の約束、菅首相の浜岡原発停止、野田首相の尖閣国有化など、民主党政権は、アメリカにとって最もやってほしくないことをやったことになる。民主党政権全体の「官僚主導から政治主導へ」の方針も、アメリカにとってはいらだったに違いない。なぜなら官僚レベルでアメリカの意思が政策に反映される「制度」になっているから。これは「日米合同委員会」という制度が「日米地位協定」で法的根拠をもって機能しているからである。「日米地位協定」は日本国憲法の上位にある。憲法学者はこれをタブーにすることで憲法解釈を論じるが、それは現実の対米依存に対するリベラル的抵抗(つまり政治的抵抗)と見なすべきであって、その影響は広く日本社会のリベラル層を魅了してきたものの、結果として「対米依存」という現実から目をそらす役割を担ってきた。それは学問というより政治的な営みである。「日米合同委員会」を抜きにして日本の安全保障を議論することはいっさい無効である。それはドメスティックなユートピアを論じているにすぎない。いいかげん、このことを認識して考えないと、たいへんなことになる。

だからといって、今回の安保法案がそのまま成立するのはきわめてリスキーである。日本国憲法の理念と反戦意識がまったく盛り込まれていない。これが明らかになったのは参議院における質疑であった。ほんとうは衆議院でこれらの問題を質疑するべきであったが、衆議院は安全保障自体の問題についてほとんど立ち入ることなく門前払いするかどうかに終始したため、それに失敗した。今回の法案において修正を要する箇所はかなり多い。それでも成立させなければ日本はアメリカの信頼を失うだろう。信頼されないとなるとアメリカは今後も強く干渉を続けることになる。他方、安保法案が成立したのちに違憲訴訟になり、その判決がでれば憲法改正モードになることは必至である。そのさい出てくる改正案は、いわゆる自民党案ではない。事実上のアメリカ案であると私は予想している。アメリカ案はかなりドラスティックな変化を日本に求めることになるだろう。たとえばアーミテージは第九条廃棄を主張している。そのときに共和党政権であれば、それが採用される可能性さえある。

ここまでが私の見方である。ど素人なりに勉強して、ようやくこういうことが言えるまでになった。安全保障の問題は難しいのである。しかも「日米合同委員会」のような存在にもふれないと議論にならない。このようなことは、ほとんど認識されていない。「日米合同委員会」については外務省が情報公開しているが、きわめて専門的で、一般人には理解できない。きめ細やかな解説をしてくれる自由な研究者が必要だ。

ということで、私はその情報環境の現状に抵抗しているだけであって、今回の法案についての判断はどんどん変化している。今日の段階では、おそらく成立すると予想できるので、それならネガティブリストを付けるだけ付けて修正してほしいと願っている。核兵器を自衛隊が運搬することが法文上可能であるというのは論外である。そういうことを「しない」というネガティブリストをいちいち付与していくことで、日本国憲法前文の精神を吹き込むしかないだろうと思う。それはおそらく民主党と公明党の役割である。おそらくこの2つの政党のトップは事情を理解していて、しかも平和主義を標榜しているから。自民党にはできない。

これまでたくさんの参考文献をこのブログとツイッターとフェイスブックで紹介してきたが、しぼりにしぼると以下の2つの文献になる。ぜひ読んで、その上で考えてほしい。

(再掲)2013/02/03 【IWJブログ】CSIS「第3次アーミテージレポート」全文翻訳掲載

前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』創元社、2013年。

参考までに「日米合同委員会」についての外務省公式ページをリンクしておく。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa12.html