去年の今日は、入学式直後に行う学部ガイダンスのスピーチをリライトしていました。来年度の入学式(明明後日)は何もしゃべらなくてよさそうなので、そのかわり去年のスピーチのメモを掲載しておきます。一部は昨年12月に出した『ゼミ入門』で展開しました。前半は一般論ですが、後半は国学院限定です。なお、内容については学部からは何も指示がなく、私の裁量に任されています。
■イントロ
まず、大災害や事故などで、ここまで来るまでにいろんな苦労をしてこられた方がいらっしゃると思います。個人的な苦労もあった人もいるでしょう。そういうみなさんには「よく来たね、がんばったね」と言いたい。
私からは経済学部学生としてやっていくための大前提についてお話ししたいと思います。これからの四年間にいつも心すべきことを一歩踏み込んでお話しします。
大学生になると、ふたつの力が強く働くんですね。求心力と遠心力です。
まずは、求心力。それは次の一言に集約できます。
■大学は「ことば」でできている
大学に通うようになると、まずは建物、つぎに友だち、といった具合に見えてくるのですが、じつは大学の本質はことばでできているんです。それは4年間通うと身にしみてわかりますし、卒業すると、もっと実感します。
大学はことばでできている。
いったいどんなことば? 英語はもちろん。でも、それだけじゃない。
ものごとの名前、意味、概念、数字、命題、歴史、解説。こまかいことはいいか。
こういうことは文学部や法学部の人はなんとなくわかっています。しかし経済学部はどうかな。だから確認しておきたいんです。
そもそも経済や社会の現象や問題は、そのままでは見えてこない。概念とか理論とか歴史とか、そういう「ことば」がないと本当の姿は見えないんです。
たとえば数字もことばの一種です。数学以外は、たんなる数字はでてこない。必ず意味をもった「ことば」として登場してきます。経済の場合、これは多いですよ。
みなさんはこれから本学で経済学を学ぶんだけれども、じつはいろんな「ことば」を学ぶんだということです。
ことばの森を通過することが重要なんです。そして、語り合うことばの中でこそ、それらの反応として自分の中に新しいアイデアが生まれたり、個性が磨かれていくんです。
その意味で、ことばは自分を自由にする。他人のいうことがわかる。自分の考えを自在に表現できる。チームで仕事ができる。世の中のことがわかると楽しく生活ができる。逆に「生きづらい」と感じるときは「ことば」が不足しているんです。
じつは、我々が暮らしている社会それ自体もことばでできているんです。ことばによって動いている。たとえば裁判所で「懲役八年に処する」と言われたら刑務所に入らなければならない。経済で言えば、ローンを借りるときに「五パーセントの利子が付きます」と言われたら、ほんとに五パーセントの利子が付くので、必死で返さなければならない。
だから、ことばをどれだけ知っているか、理解できているか、それらを上手に駆使できるかによって格差ができる。給料からしてちがってきます。
→大学での勉強は、すべて「ことばの力をつける」につきる。このことから逃げてはいけません。スルーしてはいけません。それでは大学に来たかいがない。なにより卒業できないでしょうね。覚悟を決めてください。
先輩たちを見ていると、ことばを受け止める能力は、入学時点からくらべてヒトケタアップするもんです。つまり、10倍とか50倍とか。それがあたりまえになります。こういうと「はったり」に聞こえるかもしれませんが、実際そうなんです。すぐに始まる基礎演習では1ページを読んで発表するだけで「ぜいぜい」言ってた人が、1年の後半になると300ページあるような専門書について発表できるようになります。私たちスタッフもそうなるように、いろいろ仕掛けをしています。ノリが悪いとだめですが、そこそこついてきてくれると、いつのまにか「ことばの力」がついてきます。
それはたとえば雪だるまの作り方に似ています。雪だるまは、ただ転がしてもうまく行かないもんです。まず芯をしっかり固めてから転がす。下に転がすとコントロールが効かないので、上に向かって転がす。
芯の固め方には決まったやり方があるので、それを1年生のうちにやっていただたきます。だから1年目は学校みたいに制約があるように感じるかもしれない。でも、だんだん大学らしい自由になっていきます。
これが大学生活の求心力のほうです。
ところが、じっさいの大学生活においては、逆の力も働きます。それをかりに遠心力と呼んでみます。じつは、こっちも大事なんですよ。
■ライフスタイルを決める
趣味、スポーツ、バイト、サークル、友だちづきあい、遊び方、オシャレ。
ライフスタイルというのは、生活のひろがりを自分なりにどうコントロールしていくかということです。
これが中年オヤジになると「いきざま」とか言ったりするんですけど。それは過去形ですね。みなさんは現在進行形です。
とりわけオシャレになっていただきたいのと、いいつながりをたくさんもっていただきたい。
いいつながりをみつける(就活の話ができる先輩とか、去年のノートを見せてくれる先輩とか)
オシャレに関しては、街を学ぶ、都市的感受性を身につけることです。渋谷キャンパスは丘の上にありますが、そこから渋谷はもちろん代官山、表参道、青山、広尾、恵比寿、六本木、乃木坂と、みんな歩いて行ける。この特性を生かしてください。都市の文化を呼吸して、都会的なセンスを自分のライフスタイルに取り入れていってください。
ビジネスの世界では三つの力が必要だと言われます。「学力、体力、魅力」
経済学部生が活躍するビジネスの世界は人間関係の世界。交渉力が問われます。魅力が大事。気を抜いて大学に来ちゃダメ。気合い入れておいで。
ニヒル、シニカル
意識的にやっていかないと、卒業のときでもダサいまま。ときどき、まるで変化しないことがいいことだと信じている人がいて、高校時代のスタイルをかたくなに守ろうとする人がいる。中二病をひきづるな。野暮な人になるな。
そうじゃないんです。大学時代には、さなぎが蝶になるように、おたまじゃくしがかえるになるように変態しなければならない。そういうチャンスなんです。あか抜けた人になりなさい。それで大人の世界に飛び込んでいくんです。
というわけで、求心力と遠心力のバランスをとりながら自分を育成してください。今までは、ご両親や学校の先生方がみなさんを育成してくれたわけですが、これからは自分で自分を作っていくんです。ポケモンで言うと、サトシは皆さん自身です。いろんなポケモンはさまざまな能力のレパートリーです。これからの四年間で自分のレパートリーをどんどん増やしていきなさい。昨日試験をやって苦労した方もいると思いますが、英語だって数学だって、まだまだ間に合います。
■一流の学生になる決意
こういうことは、まず決意しないと絶対なれない。しかし、決意すれば、一流の大学生になれるんです。
なぜなら、スタートラインはみんな同じだからです。
文科省検定の教科書を勉強する競争は終わりました。文科省検定教科書からはなれて、アカデミックな学問世界と直接つながる大学に入ったんですから、どこの大学でも新入生のスタートラインは同じなんです。
国学院大学はかつては超一流の大学でした。戦前は、教師と神官の養成をミッションにしていたからです。この人たちは将来を約束された知識エリートです。たとえば、三島由紀夫という有名な作家がいましたが、その最後の小説の『豊穣の海』の第二部である『奔馬』という作品があります。奔馬というのは「奔放な馬」と書きますが、意訳すると「文化的にとんがった若いエリート」という意味です。これは翻訳されて世界中で読まれていますが、その二人の主人公の一人が国学院大学の学生という設定です。昭和のはじめの不穏な時代の中で、クーデターを企てるんです。発電所を爆破して混乱させる計画だったんですが、密告されて失敗します。
きっとモデルになるような人がいたんだと思います。国学院は、かなり古風な校風のように見えますが、じつは古い伝統と世界的視野の新しい考え方との緊張関係を引き受けることこそが国学院の伝統なんだと思います。1番手にはならないから目立たないですが、2番手には必ずつくんです。
だからこそ、この大学で、なろうと思えば一流の大学生になれる。そして時代の最前線に躍り出るような大人になれる。そういう人を「大化けする」と私は言うんです。私たちスタッフは、そういう学生をたくさん見てきましたから言える。
大学生活の求心力と遠心力をバランスよくこなして、ぜひ一流の学生になってください。そうなると、明日から忙しくなりますよ。帰りにオシャレな手帳でも買ってスケジュールをしっかり管理してください。ご健闘を祈ります。